身代わり王妃の恋愛録
ーおめでとうございます、国王陛下、お妃様
心が込められているかわからない義務的な賛辞と祝詞に、私は酷く疲弊していた。
若い未婚の女性達は皆親の仇のような目で私を見るし、偉そうな貴族の男は残念そうな態度がバレバレだ。大方自分の娘を陛下に嫁がせたかったのだろうが、まあ仕方ない。これは国を結びつけるための結婚だしね。
それでも私は笑顔で通したし、陛下も眉ひとつ動かさず静かにポーカーフェイスを貫いた。
それよりも私は夜会開始から既に3時間が過ぎ去った今の現状にドギマギしている。
パーティーの準備は仕方なくアリアとカイに任せた。アリアは一晩中今日のお祭りで露店を出す。だから留守番がいると助かると言ってお店でパーティーをすることを快く承諾してくれたのだ。カイは今の仕事はじゃじゃうま王妃のお世話だから夜会中は暇だとかなんとかで引き受けてくれた。
けれどそれに陛下を連れていけなければなんの意味もない。18時と、セレストの夜会にしては少し早い時間から始まった今宵の夜会だったが、既に時刻は21時。
ダンスは既に終わっているし、今は皆歓談を楽しんでいる。
ちなみに今私は陛下と一緒にはいない。陛下はいろんな人と一緒にいるし、私は体調が良くないから風に当たりたいとバルコニーに出てきているから。
21時を回っているというのにお城の外はとても賑やかだった。陛下の誕生日を祝うという目的で行われるお祭りだけれど、それは半分くらい口実。こうやって皆が馬鹿騒ぎするおかげでお金が流れるし、貧困者にもチャンスが訪れる。そういう意味で行われるお祭りでもあるのだ。
だから陛下の誕生日が過ぎてもその翌朝まではこの騒ぎは続く。ゆえに事実上翌日は祝日みたいになってしまっている。
ただ概要は知っていても私は参加したことはない。だからこそ、初めては陛下とが良かったのだけれど…。
当然ながら陛下はまだ解放されない。
このままでは今日中に陛下のお祝いが出来なくなってしまう。
「陛下…」
自分でも驚くほどに切なげな声が出たな、なんて思いながら空を仰ぐ。冬の空は美しい。星の光は私の心を温めるには足りない。
「陛下…」
「呼び過ぎだ」
聞き慣れた大好きな声と、私をふわりと包む温かな体温。
ふわりと香るその香りに、私の目が見開かれていくのを感じた。
「なん、で…」
突然に陛下の腕の中にすっぽり収められてしまったわたしは軽く身じろぐ。けれど当然ながら私が離れる気も、向こうが離す気もなかったから、位置はそのまま。
「…風邪を引くだろう」
陛下はそう言うとふわりと私を持ち上げる。お姫様抱っこなそれに少し驚きはしたものの、おとなしく陛下に身を預ける。
「行くぞ」
どこに?そう言う前に陛下は静かにバルコニーの柵を飛び越えたー。