身代わり王妃の恋愛録

お店で待っていたカイは嬉しそうに私に荷物を手渡した。

それが愛用のエプロンと洋服が入ったバッグだとわかるのにそう時間はかからない。

「カイ、ありがとう」

私はそう言って笑うと陛下の手をとってお店の中に入る。陛下を席に座るよう促すと、私は待つように伝え、奥に入る。

自己最短記録を更新するレベルの速さで着替え、手早く料理の準備をする。

ケーキは型に流し、オーブンに押し込む。陛下には昨日のうちに焼いてあった焼き菓子を出して、待っていてもらう。

料理はほぼほぼ仕上がっているので、あと少し。段取りが悪いのは許してほしい。本当に時間がなくてこれで精一杯だったから。

「お待たせー」

そうして全ての料理を作り終えて陛下のところに持って行けたのがそれから15分後。アリアとカイが少し進めておいてくれていたおかげで当初の予定よりだいぶ早く仕上がった。

カートに全ての料理をのせ、陛下のもとに運んでみると、陛下は目を見開く。

それを横目で眺めながら、手早くテーブルにお皿を並べ、私は陛下の正面に座った。

「…アルさん、お誕生日おめでとう!」

私はそう言ってパチパチと手を叩く。陛下はただただ呆然としている。

「へい、か?」

嬉しくなかっただろうか。迷惑だっただろうか。

負の感情がよぎり、私の頭の中は真っ白になる。そりゃ、美味しい屋台や出店がたくさん出ているのだ。そっちの方が良かったかもしれない。

「…悪い」

陛下が漸く紡いだ言葉に、私はハッとして顔を上げる。少し頬を赤らめて視線をそらす陛下に私の心臓は騒ぎ始める。

「…想定外だった…。黙っていて…悪かった」

どこか気まずそうに、けれども頬をほんの少し赤らめて、陛下は私の目を見てそう言った。

そして心底嬉しそうな笑みを浮かべる。

「…ありがとう…と、そう言うのだったな…。本当に嬉しい時は…」

その瞬間、どくん、と心臓が嫌な音を立てた。けれどそれも一瞬。

そんなことよりも陛下の笑顔とその言葉が嬉しくて。私の顔は自然と綻んだ。

「…こちらこそ。生まれてきてくれてありがとう、アルさん」

どこか気恥ずかしくて、くすぐったくて。けれどそれよりも嬉しさが勝ったから。

「…食べて。頑張ったんだから」

わざとらしくはっちゃけて言う私に陛下は小さく頷いて見せた。

「…いただきます」

陛下はそう言って手を合わせた。その瞬間、少し眩暈を覚えたけれどきっと疲れているから。私は自分にそう言い聞かせて陛下との時間を楽しむことにした。
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