身代わり王妃の恋愛録

作り過ぎたかな、なんて心配は杞憂に終わる。陛下は余裕の表情で全ての料理を平らげてくれた。

残るはケーキだけ。残念ながら焼き上がりはしたもののまだ飾り付けをしてないのでまたも陛下に待っていてもらわないといけない。

陛下ごめん、ちょっと待ってて。

そんな言葉とともに席を立った私だけど、なぜか立ち上がったのは私だけではなかった。

もちろんこの場には私と陛下しかいないわけだから立ち上がったのは陛下な訳だけれども。

「な、に…?」

「…手伝う。少しは役に立てる」

陛下の静かな言葉は全てを知っているようでどこか悔しい。けれど2人でケーキ作りをするというのも、これはこれで良い思い出かもしれない。

陛下はなんでもできるし、おかんだし、本当にケーキ作りもできるのだろう。

「良いの?」

私の問いかけに対して陛下は少しだけ口元を緩めると、私の頭を軽くポンっと叩き、キッチンに行ってしまった。

残された私は呆然と宙を見つめる。

ー知ってる…この感じ…。私、前にもこんな風に、誰かに…。

ーでも誰かって…誰…?

私の心の中の問いに答える者はいない。けれど、陛下と関わるうちに何度も自分に違和感を覚えたことはあった。

記憶の一部が欠落している、そしてそこには陛下が存在するのかもしれない、そう思っていた。けれど陛下は幼少期留学していたというし、私はこの国に滞在することが多かった。

重なるはずがない。出会うなんてかなり低い確率なはず。だから記憶のほんの一部だと思っていた。

本当にそう?

陛下と出会ってから、何度デジャビュだと思っただろうか。しかもこの短期間で。

まさか…。嫌な予感と恐怖が押し寄せる。

ありえない。ありえないでしょう?

震える足に力を込めてキッチンに行けば、そこにはもう飾り付けを始めた陛下がいた。

おかしい。私はすぐにピタリと足を止めた。

私はケーキを作るとき、最初に4等分する。4つに分けて、それぞれを違うもので飾るのだ。1つはフルーツたっぷりに。1つはショートケーキ仕様に。1つはチョコレートケーキ仕様に。そしてもう1つは私秘伝のベリーソースをたっぷり塗って。

欲張りで、あまり見目麗しいとは言えないけど、いろんな味が食べられて、飽きない。そして誰でも食べられて、思わず笑っちゃうケーキ。

昔から誕生日はこれと決めているけれど、私が誕生日にケーキを作る人なんてかなり限られる。

なのに、どうして…?

「…どう、して…?」

想像以上に声が震えた。

想像もつかないはずの私のケーキ完成イメージ図を…なんで陛下が完璧に再現しているの…?

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