身代わり王妃の恋愛録
*13th Day*
結局私たちがお城に戻ったのは日が昇り始めて、空が少し明るくなってきた頃。
さすがにその時間になると人がポツリポツリと減り、開いている露店よりしまっている露店の方が多くなる。
特に誰かに見つかることも無く、部屋に戻り、陛下に至ってはそのまま休むことなく執務室に直行した。
曰く、今寝たら間違いなく寝過ごす、らしい。もっともな意見に同意し、私も軽く身体を流して、違う服に着替えた。スキニーとニットのセーターを着込み、下ろしていた髪を1つにまとめて頭のてっぺんでくくる。
このまま部屋にいても眠ってしまいそうだし、だからと言って孤児院に行くのも少し気が引ける。
城内をウロついて役立たずの穀潰し王妃を晒すわけにも行かないし。
そんな感じで考えにふけっていた私はノックの音に気づかなかったらしい。気づけば目の前にエルが立っており、寝台に腰掛ける私を見下ろしている。
「なに…?王妃の寝室に男1人で入ってきて良いと思ってんの?」
この男を前にするとどうしても喧嘩腰になってしまう。自覚はあるけど特に困りはしないので直さない。てか、この男もそうだからお互い様だ。
「ふん。本物なら入らねえよ。偽物は偽物でもじゃじゃ馬のハチャメチャ仮王妃だしな」
これだ。嫌味と揶揄を混ぜなきゃ会話ができないのだ。この男は。
「余計なお世話!あんたに迷惑かけてないんだから良いでしょ」
ふんっとそっぽを向いて言えば、エルは私の顎を掴んでグイッと自らの方に向かせた。
「良くねえ。全然良くねえ。お前、なにも知らねえな?」
「…は?」
「無知め。良いか、お前は国に戻り次第城に呼び戻される」
さらっと言われる事実に私は引いた。城に呼び戻されるということはあの女王は私に何かさせる気だ。
ありえない。まだあの女は私を手駒として使うつもりなのか。
「…それで?」
「女王として即位させんだよ」
「は…?」
何を言うのか、この男は。突然すぎて頭がついて行かない。けれどこの男が言ったのは重要なことで、理解しないわけにはいかない。パニクりつつもそこまで冷静に考えて、私は息を吐く。
私は“いてはいけない存在”で、認知されない、禁忌の存在だ。少なくとも公に“私”としてでるなどありえない…はずだ。あの女王は体裁を気にするし、私を公に出すなどあり得ない。そう自分に言い聞かせながら見つめる私に対し、エルはため息を吐いてみせた。
「それと…政略結婚が決まっている。…俺とな」
その瞬間、まるで崖から突き落とされたような感覚が私を襲った。