身代わり王妃の恋愛録
「っ!…ま、待ってよ…。話についていけない…。エル、あんた何言ってんの…?」

あまりにも唐突過ぎる。ただの妄言だとしたってタチが悪い。

「師匠に聞いたんだから間違いねぇよ。ミレイ王女に双子の妹がいることも、その妹との結婚が決まっていることも、そしてその妹が今は王妃代理をやっていることも…全部師匠から聞いたんだ。だから俺は、その双子の妹に会いにきた。そしたらそれがお前だったわけだ」

「…あの女王はミレイが双子だと公言するつもりはないはずでしょ…っ!?なんで…っ」

今まで必死に隠してきた双子の存在をあの女がそんな簡単に公にするわけがない。

自分にそう言い聞かせるもやっぱり安堵より不安が勝る。

あり得ない、けど、万一…。

「んなこと知るか。俺は抗えないと思っていた。諦めて、受け入れるつもりだった。けど1度くらい相手を見てみたいだろ。だからこうしてこうして母国に戻って来た。俺もお前だとは思わ「エルッ!」」

私はガバッとエルの胸ぐらを掴んだ。長身の陛下よりもさらに少し高いエルを目一杯見上げる。

「なんで…あんたはそんなんじゃないはずでしょ!?嫌なことにはきちんと抗うやつでしょ!?どうし「お前なら良いと思った」」

エルの鋭い視線が私を捕らえる。胸ぐらを掴んでいたはずの私の腕がエルにとられる。

「何言って…」

情けなくも声が震える。

裏で勝手に進んでいたらしい私の結婚話。政略結婚としてはまだマシな部類であろう、相手はよく見知った男。

それでも。

私はまたあの女の手駒になるのか。

絶望と憎悪が私を襲う。

「お前なら良い、フウ」

いつもの皮肉を含んだ声じゃない、まっすぐ、真面目な口調でエルは静かに言った。

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