身代わり王妃の恋愛録
「エ、ル…」

この男はこんなだっただろうか。さっきまで散々私に喧嘩口調でつっかかってたくせに。

震える私の腕を掴んだままエルは静かに私を見つめている。切れ長の青の目に捕らえられた私はエルから視線を逸らせなくなった。まるで金縛りにでもあったかのように動けなくなる。

似ていないと思っていたエルは兄弟というだけあってどこか陛下を感じさせる雰囲気を醸し出していて。

思わず溢れそうになった涙を懸命に堪えて、私はエルを睨みつける。

「俺だって本当に無理ならどうにかするつもりだった。けど、お前とならどうとでもなる気がしてる」

「……あんたは私が嫌いでしょ」

「別に?嫌いじゃねえよ」

「……いつもバカにするじゃん」

「挨拶みたいなもんだろ」

「……わ、私のこと女らしくないって」

「そうだな。もう少し落ち着け?」

「……エル…?」

私はエルの腕を振りほどき、ぎゅっと彼の手を握った。冷たい手を握り、静かに距離を詰める。

「……なんだ?」

「何焦ってんの?」

「っ」

エルは小さく息を飲んだ。そして悔しげに私を睨む。

「焦ってない。なんで俺が焦るんだ、俺は…いや、もう良いか」

諦めたようにため息を吐いて、背筋を伸ばした。形の良い眉が若干下がり、表情がどこか不安げに揺れる。

「好きな女に好きな人がいれば焦るだろ。それがいずれ結婚する相手なら尚更だ」

その言葉が私の心にすとんと落ちる。

この国で初めて会った時、エルはただただ楽しく私をバカにしていた。私とのいつもの他愛のないやりとりをただただ楽しんでいるのがわかった。

けれど陛下の説教後のやりとりでは、どこか苛立っていた。楽しんでいるだけではないのがわかった。

そして今日、エルはいつもより早口だった。何故だか真面目な顔つきで、ニヤついてる様子もなくて。

「お前ならどうとでもなる気がしたって言ったが、本当は違う。お前が俺の隣にいてくれる未来があると思ったら嬉しくなった」

お前が好きだよ、フウ、、、そう言ってエルは頬を赤らめつつまっすぐ私を見た。

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