身代わり王妃の恋愛録
『僕の敬愛する姉さん。その子がーーーかな?』
聞き覚えのある、というよりは聞き慣れた軽い声が響く。それに答えたのが1人の女性。
『そうよ。あの人が病気になって王宮内が荒れてる。勢力争いがかなり活発化しているし、危険も増えてる。だからあなたにこの子を匿って欲しいの。私が力及ばないばかりに迷惑をかけて申し訳ないのだけれど…どうか心身共に強くたくましく育てて欲しい。お願いよ、ウェルナー』
切なげに目を細める女性にも見覚えがあった。長い睫毛が影を落とすその綺麗な顔はぼんやりとしか見えないけれど、力強いその声とは裏腹にどこか儚げに見えた。
『……ーーー、君は男なのに、お母さんにばかり頭を下げさせるのか?』
どこか厳しげな男の声にピクリと動いたのは1人の少年。やっぱり顔はぼんやりとしか見えないけれどどこか見覚えがある。
『……』
『…屈するのと頭を下げるのは全然違う。大切な人のために頭を下げるのは弱さではないよ』
少年は小さく頷く。どこか不安げだったが、それでも男の言葉に納得したのか少年はぺこりと頭を下げた。
『…よろしくお願いします、ウェルナーさん』
『よく言えたね。言っておくけど僕は厳しいからね。覚悟するんだよ』
男はそう言って少年の頭を撫でた。少年はどこか照れたようにうつむいていたー。
***
「……い、………ろ…っ!………きろ…っ!………ゥ、……ウ!……フウ…ッ!」
身体を揺すられる感覚と、何かを呼ぶ必死な声が伝わって。
私はゆっくりと重い瞼を開けた。
「……起きたか…」
ホッとしたような優しい声と、責めるような視線。その全てに、私はひどく安心した。
「…陛下……大丈夫?」
「……阿呆。それはどう考えてもこちらのセリフだろう…。本当に……お前は…」
別に阿呆じゃない。陛下の綺麗な顔は心配になる程青くなっているのだ。
「阿呆じゃない。陛下…顔真っ青…」
陛下の頬に手をのばしかけて引っ込める。その手を、なぜだか陛下はギュッと掴んだ。