身代わり王妃の恋愛録
ここはセレストで今ちょっと流行っているカフェ、『カフェ・レ・テーゼ』。
私の幼馴染で、私の正体がシャーレットの第二王女だと知るアリアが店長を務めるカフェだ。私は彼女に頼み込んで一ヶ月間ここでアルバイトをさせてもらうことになった。
給料はあまり出せないよ、とか言いつつお昼も出してもらえるし、大好きなアリアと居られれるのだから私に不満はない。
制服も可愛いし。
モーニングからやってるこの店はその分閉店が17時半と少し早い。だから陛下には17時半過ぎくらいにお迎えを頼んだ、んだけど…。
「ブレンドを一つ。それとアップルパイを頼む」
ちゃっかりデザートまで注文しちゃった陛下は閉店の17時半までの一時間、ここにいるつもりに違いない。てかアップルパイが好きなのだろうか?好きなのだろうか?ギャップ萌えにもほどがある。なんかかわいい。
見たところ陛下は時間を潰す道具なんて持ってなさそうだ。何をして過ごすつもりだろう。知り合い、しかもこの国の王様に見られてるって緊張を通り越して恐怖なんだけど。
けど今私はここのウエイトレスで、陛下はお客様。王妃と国王という関係はとりあえず今は無視だ、無視。
「ブ、ブレンドに、アップルパイですね。かしこまりました。少々お待ちください」
笑顔は引きつっていなかったはず。陛下相手だ。急いで持ってこなきゃと踵を返した私に陛下のお言葉。
「その制服…」
「な、なに…ですか!?」
まさか似合ってるとか?いや、自意識過剰すぎだ。そんな甘い言葉をこの陛下がのたまうわけがない。もっと違うやつ。きっと色合いが私に合ってないとか、スカートが短いとか(膝丈だけど!)、文句をつけるに違いない。
私は心の準備をし、ゴクリと息を呑んだ。
「裾がちょっとほつれてる。持ち帰れるようなら持ち帰れ。直してやる」
斜め上きた。
「え?へ、へい…いや、貴方がですか?」
「…?ああ」
え。王様が手芸とかやっちゃうの?もしかしてこの人、ずぼらな人間を放っておけないタチか?いや、もうそれしかない。なんで陛下が直々に直しちゃうのさ。直しておけよ、って一言言われれば自分で直すのに。
「ありがとう。店長に聞いてみる」
驚いた私だけど、陛下へのお返事の声はかなり弾んでいた。やっぱり私はこの人のこと、人間として好きだ。
私が外に出ることを反対はしても、アルバイトしたいという希望に関しては何も言わなかった。王妃がアルバイト?…って嫌な顔してもおかしくないのに。
ああ、もうほんと…。
「ありがとう」
もう一度お礼の言葉を述べた私に、陛下は少し驚いた顔をしていた。