① オオカミさんとクマさんに。狙われた私の…
社長婦人
「は~、流石は社長の別荘。
凄いですね~」
私の感嘆を無視して、彼はさっさと目的地へと向かう。
海岸に面した小高い崖の白い家は、館といっても差し支えない大きさだった。
ザザーッと打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
「奥様、社長に言付かって参りました」
「あら、いらっしゃい」
病床から上品に笑った奥様に、大神さんは斜め45度の完璧なお辞儀をする。
後ろで私もマネをする。
少しぽっちゃり体形で、いかにもお嬢様全とした色白美人の奥様。
年の頃は社長と同じ、50代か。
「まあ、大神くん、その人は?」
気のせいかもしれないが、トロリとした声色に、少し険がある。
「ああ、済みません、今年入りました、新入社員で、私の部下です。おい、赤野くん、あれを」
花束と果物を渡すよう、目で合図を送る。
「社長から預かって参りました」
嘘ばっかり。
横目で彼を一瞥しつつも、慌ててそれらを渡そうと歩み寄る。
と、彼女は明らかに眉根に皺を寄せた。
「カサブランカね…折角なら大神くんから貰いたいわ」
「これは失礼しました。…赤野、貸せ。」
奥様には聞こえないように、語尾のトーンを下げると、私の手から花束を奪った。
「どうぞ、奥様」
響くテノール、蕩けるような笑顔。
大きな白い百合の花束が、馬鹿馬鹿しい程よく似合う。
…ホストか、あんたは。
「ありがと。…ちょっとあなた?」
耳元を赤く染めた奥様を、唖然と見ていた私は、突然の声にビクッと肩を震わせた。
「これ、活けてきて」
「は、はいぃ!」
ぞんざいにそれを手渡すと、窓辺の花瓶を指さした。
“早く行け” との大神さんの手振り。
もう、“仕事” は始まってるようだ。
私は打ち合わせどおりの動きを開始した。
凄いですね~」
私の感嘆を無視して、彼はさっさと目的地へと向かう。
海岸に面した小高い崖の白い家は、館といっても差し支えない大きさだった。
ザザーッと打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
「奥様、社長に言付かって参りました」
「あら、いらっしゃい」
病床から上品に笑った奥様に、大神さんは斜め45度の完璧なお辞儀をする。
後ろで私もマネをする。
少しぽっちゃり体形で、いかにもお嬢様全とした色白美人の奥様。
年の頃は社長と同じ、50代か。
「まあ、大神くん、その人は?」
気のせいかもしれないが、トロリとした声色に、少し険がある。
「ああ、済みません、今年入りました、新入社員で、私の部下です。おい、赤野くん、あれを」
花束と果物を渡すよう、目で合図を送る。
「社長から預かって参りました」
嘘ばっかり。
横目で彼を一瞥しつつも、慌ててそれらを渡そうと歩み寄る。
と、彼女は明らかに眉根に皺を寄せた。
「カサブランカね…折角なら大神くんから貰いたいわ」
「これは失礼しました。…赤野、貸せ。」
奥様には聞こえないように、語尾のトーンを下げると、私の手から花束を奪った。
「どうぞ、奥様」
響くテノール、蕩けるような笑顔。
大きな白い百合の花束が、馬鹿馬鹿しい程よく似合う。
…ホストか、あんたは。
「ありがと。…ちょっとあなた?」
耳元を赤く染めた奥様を、唖然と見ていた私は、突然の声にビクッと肩を震わせた。
「これ、活けてきて」
「は、はいぃ!」
ぞんざいにそれを手渡すと、窓辺の花瓶を指さした。
“早く行け” との大神さんの手振り。
もう、“仕事” は始まってるようだ。
私は打ち合わせどおりの動きを開始した。