【完】最初は、それだけだったのに。
モヤモヤを取り除けないまま、彼女が待つ昇降口に向かう。
市岡と付き合ってから二週間近く経った。俺と市岡が付き合った噂は光のように速く広まっていった。
以前から市岡に人気があることを知っていたが、これを機に少しは収まるだろうと思っていた。そんなことを考えた俺が馬鹿だったと思う。
市岡の可愛さは俺だけが知っていればいい。…こんなことを思ってしまうオレは心が狭いだろうか。
階段を降りると昇降口が見えた。まだ距離があるためはっきりとは分からないが、きっと彼女だろう。
そこに向かうため歩いていると、はっきりとしていなかった彼女の姿がしっかり見えた。思わず笑みをこぼす。
あと数メートルのところまで行き、声を発しようとすると彼女と話す少し低めの声が聞こえた。
彼女は曲がり角におり、こちらからは相手の姿が確認することができなかった。嫌な予感がした俺は急いで彼女の元へ向かった。