【完】最初は、それだけだったのに。
彼女の手を後ろから引き寄せる。わっ、と声を出す彼女から目の前にいる男に目を向ける。
…チッ、やっぱり男かよ。
ソイツを睨むと、目の前の男は気まずそうに笑いながら彼女にまた明日ねと言って去っていった。
俺は手をパンパン叩かれるが、姿勢を変えずそこで彼女をしばらく抱きしめた。
「し、時雨くん…?どうしたの一体…。何かあった?」
愛しい彼女の声が聞こえる。声色から不安そうなのが伺える。
「…ごめん、市岡が他の男と話してるのを見て妬いた。」
そう言うと彼女はふふっと笑った。
「不謹慎かもしれないけど、嬉しいなあ。なんでか分からないけど!」
ごめんね、と言いながら俺の手を両手で包み込むように握る。