コイのヤマイ
――……ダッダッダッダッ!
駆け足で階段を登る音が聞こえ「はあ、」と、溜め息を吐き、布団の中へ避難する。
……あいつが帰ってくるなんて珍しい。
「志帆!」
バーン! と、開け放された扉は勢いをつけて開き、その勢いの所為で再び閉まった。
毎度の事なのでもう何とも思わない。
こいつは――バカなのだ。
次は、ゆっくりと開き、背の高いそいつが姿を見せた。
「天〈テン〉」
八戸天、正真正銘の――兄だ。
あたしがそう名前を呼べば、そいつは嬉しそうに尻尾を振る。
……勿論、尻尾なんて生えている訳がないから幻覚だけども。
由紀先輩から見たあたしは、こんな状態なのだろうか。
……そ、それなら少し恥ずかしい気もする。