コイのヤマイ


ベッドから降り、ヨレた制服を軽く叩き、保健室を出れば……、丁度保健の先生と入れ違いになった。


「――八戸さん貧血と寝不足よ。明日もキツかったら休みに来ていいからね?」


……と。


その言葉に笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と、お辞儀をして保健室を後にした。




……寝不足、ね。


あたしは寝不足を自覚している。

此処最近纏まった睡眠を摂っていなかったし、夜ご飯だって食べていなかった。


しんどい身体に鞭を打ち、由紀先輩に会う為だけに学校へ来る。




そうして、

由紀先輩を視界いっぱい入れる事が出来た時、

由紀先輩の甘く爽やかな香りに溺れた時、

由紀先輩の美しいテノールボイスが耳に届いた時、



――……漸く、息が出来るんだ。




由紀先輩は『酸素』。


そこに在って当たり前のモノ。

なくなったらきっと、窒息死。



由紀先輩に会えるのなら、――睡眠も栄養も必要ない。
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