コイのヤマイ
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――……本当、帰りたくない。
いつもそれだけを心に潜め、家路につく。
ガチャ、と。
鍵を差し込み家の中へ足を踏み入れれば、まだ誰も帰って来ていないようで静かだった。
それに安堵の息を洩らしながら、二階の自室へと急ぐ。
あたしは、一度自室に入ったら、トイレとお風呂以外で部屋を出ない。
だって、必要以上に干渉すると怒られるから。
テレビもパソコンもリビングに一つだけ。
だからあたしは、ここ何年もテレビを見ていない。芸能人なんて分からないし、知らない。
お父さんの気まぐれで買ってくれたスマホだって、友達と電話やメールをするくらいでしか使わない。
だからあたしは、世間に疎いんだと思う。
事実、友達との話が噛み合わないことがある。
その代わり、あたしが知っている世界は、本の中の世界と、教科書の中の世界。
時間が有り余ったあたしの世界は、ソコにだけ存在する。