コイのヤマイ
自室に入り、今日図書室で由紀先輩が読んでいた本を手に取る。
あたしの部屋には山のように本があり、手に取ったソレはお気に入りの一冊だった。
壁中が本棚と言っても過言では無い其処には、所狭しと小説達が詰まっている。
――お金だけはたんまりと在る。
あたしを味方に付けようとする時、お父さんは平気で諭吉を数枚渡してくる。
ソレを有り難く受け取り、食費や本や参考書に回している。
ソレであたしの世界は成り立つ。
――……その小説を開きながら、由紀先輩との“オソロイ”が嬉しくて顔が綻ぶ。
あたしは由紀先輩に忠誠を誓える。
だって由紀先輩はあたしを否定しない。
迷惑だとも、邪魔だとも言わない。
隣に座っていても、一緒に本を読んでいても、煩くしても。
絶対に“ソレ”を言わない。
きっと内心では思っているんだろうけど、口に出す事はしない。
由紀先輩は無意識でも故意的でも人を傷つける言葉を言わない。
……いや、語弊があるか。
由紀先輩があたしを罵るのは、あたしがそれをどうとも思わないからだ。
何ならあの罵りは、愛にさえ感じる。