閉じたまぶたの裏側で
車を走らせながら、とりあえずどこかで昼食を取ろうという事になった。

「芙佳、何食いたい?」

「軽いものでいい。」

「昨日はファミレスで済ませちゃったからな。今日はもうちょいオシャレなとこ行くか?」

「私はなんでも。ファミレスもファーストフードも全然イヤじゃないし、むしろ好き。堅苦しいところの方が居心地悪くて食べた気がしないんだよね。」

「お、奇遇だな。俺もだ。」

たまに勲と食事に行くと、ちょっと高そうなレストランや上品な店が多くて息が詰まる。

私は好きな人と一緒なら何を食べても美味しいし、気取らずに入れる店の方が気楽に食事を楽しめるのに。

「じゃあ…ハンバーガーでも食う?」

「うん、久しぶりに食べたい。」

「よし、決まり。」

運転席でハンドルを握る應汰の姿は、ちょっと新鮮だ。

普段から営業の仕事で社用車に乗っているだけあって、應汰は思っていたより運転が上手。

「こういうの、初めてだね。」

「ん?」

「休みの日に應汰の運転で出掛けるとか。」

「普段とは一味違う俺に惚れた?」

應汰は私の方をチラッと見てニヤリと笑った。

「…前向け、前。」


そんな簡単に人を好きになれたら苦労しない。

新しい人を好きになるには、前の人との思い出を心から追い出さなくちゃいけないのに、そんな簡単なわけがない。


勲との思い出が色褪せるくらいに誰かを好きになれたら、こんな思いもしなくて済むのに。




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