閉じたまぶたの裏側で
ゆっくりと歩きながら、應汰は私の手をギュッと握った。

「高校生の頃な…芙佳とこうして学校から帰るのが夢だった。一度もできなかったけどな。」

「うん…。」

「今だって、ちょっとドキドキしてる。」

昨日何度もキスして、未遂とはいえ私を食っちゃおうとしたくせに、手を繋いで歩くくらいでドキドキしてるなんて信じられない。

「嘘でしょ?」

思わず尋ねると、應汰はほんの少し赤い顔で、照れ臭そうにチラッと私を見た。

「嘘じゃない。ホラ。」

應汰は私の頭をグイッと引き寄せて、自分の胸に押し付けた。

少し速い應汰の鼓動が、トクトクと私の耳に伝わって来る。

「ドキドキしてるの…わかるか?」

「…うん。」

應汰はそのまま私を抱きしめた。

「芙佳と一瞬にいると、照れ臭いの隠そうとしてふざけてばっかだけどな…。俺、芙佳が好きだって気持ちだけはマジだから。それだけは知ってて欲しい。」

「……うん。」

温かい手、広い胸、優しい声、甘い言葉。

全部、今まで私の知らなかった應汰。

應汰の腕の中で目を閉じると、不意に夕べの切なげな勲が浮かんだ。


“芙佳…好きだ…。どこへも行くな…。”



ひどいよ、勲。

もう私を幸せにはできないくせに、こんな時まで邪魔しないで。

私だって愛したいし愛されたい。

涙が出るほど、幸せになりたいの。


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