閉じたまぶたの裏側で
「芙佳…?」

気付かないうちに涙が溢れていた。

「また目ぇ閉じて…彼氏の事考えてるのか?」

應汰は私を抱きしめながら優しく頭を撫でた。

「今芙佳を抱きしめてるのは俺だろ。ちゃんと目を開けて俺を見ろよ。絶対芙佳を泣かせたりしないから。」

泣き顔を見られたくなくて、應汰の胸に顔をうずめた。

このまま應汰の優しさに溺れてしまいたい。

そんな事を思ってしまう私は、相当ずるい。

「芙佳…早く俺の事を好きになれ。一生愛して幸せにしてやるから。」

應汰に目一杯甘やかされて、涙腺がどんどん緩む。

私が急に泣いて、應汰困ってるかな。

“俺の腕の中で他の男を想って泣くなんて、ひどい女だ”とか、思ってるかも。

これ以上甘えちゃいけない。

私は應汰から離れ、しゃくりあげながら涙を手で拭う。

「ごめん…シャツ…濡らし…ちゃった…。」

應汰は少し笑ってもう一度私を抱き寄せ、胸に顔をうずめさせた。

「泣きたいだけ泣け。シャツが絞れるくらい泣いてもいいぞ。俺が芙佳の全部、受け止めてやる。」

「……ありがと、應汰…。」

「おー。お礼にチューくらいはさせろよ。」

「…バカ…。」





“芙佳、ごめん…。もう泣かないで…。”


勲は私が泣くと困った顔をして、泣かないでと言う。

私が泣いてない、と嘘をつくと、嘘だとわかっているくせに、それに気付かないふりをする。


勲のための小さな嘘も涙も、受け止めてもらえないなんて、なんだか悲しい。



私が泣いて困るのなら、泣かせるような事をしなければいいのに。




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