閉じたまぶたの裏側で
應汰は缶コーヒーを少し飲んで、ゆっくりと私の方を向いた。

「そんなんで、芙佳は幸せ?」

その視線から逃れるようにうつむくと、應汰はため息をついた。

「…なわけないよな。それでも幸せなら、俺の前で泣いたりしないだろ。」

「…そうだね…。」

「そもそもなんでそんな人と付き合ってる?」

「なんでって…。最初からそうだったわけじゃないよ…。元々はちゃんとした恋人同士だったから。」

私の言葉の意味がわからないと言いたげに、應汰は眉間にシワを寄せた。

「どういう意味?」

「最初はちゃんと付き合ってた。だけど…私が出向してる半年の間に、相手が結婚しちゃってたから。」

「……え?芙佳と付き合ってたのに?」

「うん…。断れない縁談だったって。」

「なんだそれ…。芙佳と付き合ってたのに他の人と結婚して?それでも芙佳ともずっと付き合ってるってか?むちゃくちゃだろ。」

應汰は自分の事のように怒りを露にした。

「うん…そうだよね…。私もそう思う。」

「出向してたのだってもうずっと前じゃん。ずっとそんな思いしてたのか?」

「うん…バカみたいでしょ?相手に奥さんがいて、この先もどうにもならないってわかってるのにね。」

渇いた笑いが口からもれた。

「笑い事じゃないだろ。」

「…だよね。」

應汰はいつになく真剣な顔で私をたしなめた。

「いくら好きでも傷付いて泣くくらいなら、そんな男やめとけ。もうじゅうぶんだろ?」





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