閉じたまぶたの裏側で
思っていた通り、金曜の夜はどの店も賑わっている。

「どこもいっぱいだな。どうする?」

私はぼんやりとさっきのエレベーターでの事を考えていて、應汰の声が耳をすり抜けた。

「芙佳?」

「ん?ああ…ごめん、ぼんやりしてた。」

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。」

應汰に変な心配はかけたくない。

さっきの事はなかった事にしてしまおう。

「どの店もいっぱいだけど…どうする?」

「この辺りの店はかなり行き尽くしたね。」

「そうなんだよなぁ。」

「それに給料前だけど…大丈夫?」

「あ、そうか。世間では給料日明けの金曜だから、どこ行っても混んでるんだな。」

「そうだね。」

うちの会社は世間でいうところの給料日より遅れて給料が振り込まれる。

世間が給料日だとはしゃいでいても、私たちにとっては給料前だ。

「毎日だと出費がかさむでしょ?無理しなくていいんだよ。」

「いや、俺が芙佳と飯食いたいんだ。毎日芙佳の作った飯食えたら最高なんだけどな。」

さらっと照れ臭い事を言うな…應汰は…。

「簡単な物でも良ければ作ろうか?」

「え?」

「しょっちゅうごちそうになってるし、そのお礼に……って言えるほどのたいした料理はできないな。やっぱりどこかで食べようか。」

應汰は私の手を掴んで、目をキラキラさせた。

「食べたい!作って!!」

「え?うん…いいけど…あんまり期待はしないでよ…?」

「やったぁ!!」

應汰、子供みたい。

こういうところは素直でかわいい。




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