閉じたまぶたの裏側で
勲は元々仕事はできる方だし、背が高くて顔も良くて、社内では注目されていた。

そんな勲に専務の娘の七海が目をつけた。

七海は専務である父親のコネで入社して、総務部に勤めている。

専務の娘だから縁談を断れなかったと勲は言うけど、断れなかったんじゃなくて断らなかったんだ。

勲にとって専務の娘との結婚は、出世を約束されたようなもの。

それに七海は、清楚でいかにもお嬢様という感じの、社内でも評判の美人だ。

そんな美味しい話を断るバカなんていない。

勲は若くて綺麗な奥さんをもらってまんまと出世コースに乗った上に、惚れた弱味につけ込んで私との関係を続ける。

私が“もう終わりにしよう”と言えば、呆気なく終わるような体だけの関係なのだろうけど、不毛だとわかっていても私は勲に必要とされる唯一の手段であるこの関係を断ち切れない。

こんな事を続けて何になるんだろうという思いは日に日に増すものの、嘘だとわかっていても勲に“愛してる”と言われると抗えない。


虚しさだけが募ると言うのに。




世の中は不公平だ。







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