閉じたまぶたの裏側で
返事ができない私の髪にそっと口付けて、應汰は私からゆっくりと手を離した。

「腹減った。飯にしよう。」

すぐに背を向けてしまった應汰の表情を見る事はできなかった。



應汰は何事もなかったように、私の作ったパスタを美味しいと言って食べてくれた。

食事をしながら二人でビールを飲もうとしたけれど“飲むと芙佳を送って行けなくなるからやめとく”と應汰は言った。

“一人で帰れるから大丈夫、飲んでいいよ”と言うと、應汰は私の方を見ずに“芙佳が泊まるならな”と言った。


食事の後、コーヒーを飲みながら他愛ない話をした。

さっきから應汰が、私と目を合わせようとしない。

いつもはこっちがちょっと戸惑うくらいまっすぐに目を見て話すのに、私の視線を避けるように目をそらしているような気がする。


しばらくすると、應汰が時計を見た。

時刻はまもなく9時になるところ。

應汰はコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いて立ち上がる。

「そろそろ送ってく。」

「ん?うん…ありがと。」

いつもはこの時間なら、帰ろうなんてまだ言わないのに。


應汰は部屋着を脱いで、苛立たしげにベッドの上に投げ捨てた。

なんとなく目のやり場に困って上半身裸の應汰から目をそらすと、應汰は私の腕を強い力で引っ張った。

その勢いで裸の胸にダイブした私の体を、應汰はギュッと抱きしめる。

突然應汰の素肌に包まれた私の鼓動が、どんどん速くなって行く。








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