閉じたまぶたの裏側で
ただ黙り込むだけの私から、應汰はゆっくりと手を離した。

「ごめん…カッコ悪いな、俺。」

應汰は立ち上がり、クローゼットの中から取り出したシャツを着た。

シャツのボタンを留めながら、應汰は自嘲気味に笑う。

「我慢できなくなって襲っちゃう前に送ってくわ。」

「……うん。」

應汰は着替えを終えると、優しく私を抱きしめて髪を撫で、ほんの一瞬、頬に掠めるようなキスをした。

「芙佳、好きだ。俺が嫉妬でおかしくなる前に早く俺を好きになれ。…待ってるから。」

なんだか胸が痛い。

どんなに好きでも、いくら一緒にいても自分のものにならない人を想うつらさを、私は知っている。

胸が痛くて、どれだけ息を吸っても苦しくて、満たされない心がズキズキと疼く。


私は應汰に、私と同じ想いをさせている。



それから應汰は車で送ってくれた。

いつもと違う重い空気に、押し潰されそうになる。

マンションの前に着くと、應汰は車を停めてゆっくりと私の方を見た。

「ごめんな…みっともないとこ見せて。」

「ううん…。みっともなくなんかないよ。應汰が真剣に私を想ってくれてるの、すごく嬉しいよ。ただ…もう少しだけ…。」

「時間が欲しい…か?」

「ごめん…。」

「謝んな、バカ。」

應汰は私の頭をポンポンと優しく叩いて、まっすぐに私の目を見た。

「絶対俺に惚れさせてみせるからな。芙佳の方からキスしてくれるの、楽しみに待ってる。」

いつも通りの俺様っぷりに安心して、思わず笑ってしまった。

「好きだぞ、芙佳。」

こんなふうに自信満々に好きだと言われるの、悪くないかも知れない。








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