閉じたまぶたの裏側で
「なんで…?もうここには来ないでって言ったでしょう?私が誰と会おうがあなたには関係ないじゃない!!」

その手を振り払った私を、勲はまた強い力で引き寄せる。

「関係なくない!!俺は芙佳が好きだって言っただろう?来るなって言われてもずっと会いたくて…芙佳があいつと一緒にいると思うとイライラして悔しくて、もうおかしくなりそうだ!」

「勝手な事言わないでよ…。」


“嫉妬する資格なんかない”


應汰の言葉が脳裏を掠めた。

嫉妬する資格がないのは勲の方だ。

「あなたが結婚したって知った後、私がどれだけそんな思いをしたかわかる?恋人だと思ってた人が、知らないうちに他の人の夫になったのよ?私を裏切ったのはあなたでしょ?!」

あの時の惨めな気持ちが蘇り、溢れそうになった涙を堪えた。

「私の事が好きなんて言ったって、何も捨てられないくせに。私が誰と何しようが、あなたには嫉妬する資格なんかない。」

うつむいて私の言葉を聞いていた勲が、拳をギュッと握りしめてゆっくりと顔を上げた。

「俺がもし…仕事も親も何もかも捨てて離婚するって言ったら…芙佳は俺のところに戻ってきてくれるのか?」

「……え?」

まさか、そんな事ができるわけがない。

それに親って…。

「元々は俺自身が望んだ結婚じゃない。俺は…本当は…芙佳が出向を終えて戻って来たら、プロポーズするつもりだった。」



…何言ってるの?


今更そんな事言ったって、勲が七海と結婚したのは事実だ。





< 58 / 107 >

この作品をシェア

pagetop