閉じたまぶたの裏側で
「芙佳だって…俺がどんなに芙佳を好きか、わかってないじゃん…。」

應汰が悲しそうにポツリと呟いた。

「…好きな人を忘れて別の人を簡単に好きになれるくらいなら、こんなに苦労しない…。」

ひどい事を言っているのは自分でもわかってるけど、それが私の本音なんだと思う。

應汰がどんなに好きだと言ってくれても、今の私はそれに応えられない。

「そんなの俺だって同じだよ。簡単にあきらめられないから、芙佳には好きな人がいるってわかってんのに好きだって言い続けてる。あきらめて昔みたいに後悔したくないから。」

應汰は立ち上がって、私のそばに座った。

「夕べ…一人で泣いてただろ。」

「…泣いてないよ。」

「嘘つけ。見りゃわかる。」

私の肩を抱き寄せて胸に顔をうずめさせ、應汰は優しく頭を撫でた。

「泣くなら俺の胸で泣けって言っただろ。もう一人で泣くな。」

「……無理だよ…。應汰、私が目を閉じたら怒るでしょ。他の男の事考えるなって。」

「それでもいい…。俺が芙佳を受け止めてやるって、言ったもんな。芙佳が誰を好きでも、やっぱり俺は芙佳が好きなんだ。」

それでもいいなんて、ホントは思っているわけがないのに。

應汰は無理をして、私の顔が見えないようにしているのかも知れない。

應汰の胸に顔をうずめて目を閉じたら、やっぱり勲の顔ばかりが浮かんで涙がこぼれた。


「泣きたいだけ泣け。今はあの人の代わりでもいい。芙佳のそばにいられるなら…。」


應汰の優しい声が耳の奥に響いた。




もう泣かないでって、應汰は言わないんだね。









< 64 / 107 >

この作品をシェア

pagetop