閉じたまぶたの裏側で
「山岸、結構冷たいらしいよ。エッチも全然優しくないし、普段もベタベタしたらイヤな顔されるし、ちょっと口論になって泣いたら、泣くな!って怒られたんだって。彼女になっても好きとか言ってくれないし、全然甘くないからイヤになって別れたらしい。」

「……そうなの?」


私の知ってる應汰とは全然違う。

應汰はいつも私に、泣きたいだけ泣けって言って、泣きやむまで優しく抱きしめてくれた。

毎日飽きもせず好きだと言って甘えたり甘やかしたり、ベタベタしてくるのはいつも應汰だったし、あの夜も何度も好きだと言って最後まで優しく私を抱いてくれた。

いつだって應汰は私に優しかった。


「芙佳といる時はどう?」

「ん…?ふざけてしょっちゅう変な事も言うけど…すごく優しいよ。」

「それって友達だからなのかなぁ。それともやっぱり、芙佳だからなのかなぁ…。」

「……どうかな…。」

少なくとも應汰は、私には特別優しくしてくれたんだなと、今更ながら思う。

私は應汰の優しさと甘さに慣れきっていた。

新しい彼女ができたのなら、私とはもう一緒にはいてくれないんだろうな。


……当たり前か。

別れても勲を忘れられなくて應汰の気持ちには応えなかったくせに、應汰が離れて行く事を寂しく思うなんて、私って本当にイヤな女だ。

こんな勝手な自分に嫌気がさす。



せめて應汰が、おまえなんか大嫌いだと言って罵ってくれたらいいのに。






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