閉じたまぶたの裏側で
料理はすべて綺麗になくなり、ワインのボトルもすっかりカラになった。

そろそろいい時間だ。

「山岸、あの子と付き合ってるのかなぁ。」

「さあ…。本人に直接聞いてみたら?」

美緒はまだ納得いかないようだけど、私にはそれしか言えない。

「そろそろ出ようか。」

割り勘にして会計を済ませ、店を出た。


バス通勤の美緒とは帰る方向が真逆なので、店の前で別れた。

一人で歩いていると空からポツポツと雨粒が落ちてきて、傘を持っていない私は足早に駅へ向かった。

駅までは結構な距離がある。

本降りになる前に駅に着けばいいけど。

そう思っていたのに、次第に雨脚が強まって、仕方なく近くの店の軒下に飛び込んだ。


街を行き交う人々をバックに降りしきる雨の粒を目で追う。

少し待てば、雨やむかな。

小降りになったら走って行こうか。

だけどなかなかやみそうにない。

やむどころか、どんどん雨はその勢いを増す。


傘の花がポツリポツリと開き始め、傘を持たない人たちは蜘蛛の子を散らしたように、雨から逃れる場所を求めた。

あちこちの店の軒先で雨宿りをする人が増え、その人たちは皆、黒い夜空を見上げている。



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