閉じたまぶたの裏側で
一人で傷を癒すため
月曜日。
またいつものように1週間が始まった。
始業前に部長から預かった書類を総務部に届けに行くと、数名の女子社員が輪を作り、楽しげな声をあげていた。
「おめでとう!」
「いつ生まれるの?」
その輪の真ん中では七海が幸せそうに笑って、同僚たちの問い掛けに答えている。
そちらを見ないようにして、近くにいた社員に書類を預け、足早に総務部のオフィスを出た。
自分の部署に戻って席についても、すぐそこに何食わぬ顔をした勲がいる。
自分で終わらせておきながら、今だって私がほんの少し手を伸ばせば、勲はきっとその手を取ってくれると、どこかで思っていた。
もし七海との縁談がなければ、勲のためにウエディングドレスを着てバージンロードを歩くのも、勲の子供を産むのも、きっと私だった。
勲もそれを望んでいたはずなのに。
……子供、できたんだ…。
勲は私を抱いた手で七海を抱いて、私のためにすべてを捨てて七海と離婚すると言いながら、自分の遺伝子を七海の中に植え付けた。
私にそうしなかったのは、勲が私との子供を望んでいなかったからなんだろう。
勲と七海は夫婦だから子供の誕生を誰もが祝福してくれる。
もし妊娠したのが私だったら、その子は望まれない子として誰にも知られないうちに命の灯を消されていたかも知れない。
たとえ私が一人で産んだとしても、勲の子として祝福される事はない。
世の中はなんて不公平なんだろう。