閉じたまぶたの裏側で
少しだけ、このままで
わずかな荷物を詰め込んだ紙袋を手に、いつもより少し遅く会社を出た。
やっと終わった。
そう思うとホッとして、だけど少し寂しくて、街灯の明かりが涙でにじんで、目の前に丸い光の輪がいくつも生まれた。
ハンカチで目元を押さえて、歩き出した時。
「芙佳。」
後ろから声を掛けられて振り返った。
「あ…。」
久しぶりに見る應汰の姿に言葉も出なかった。
「今日は終わるの遅かったんだな。」
「え?あ、うん…。」
應汰は私が手に持っていた紙袋をチラッと覗いて指さした。
「何、この荷物?」
「ああ、これ…。要らない物が増えたから、整理しようと思って…。」
どうして應汰がここにいて、私を呼び止めるんだろう。
頭の中が混乱している。
うつむいて黙り込んでしまった私を見て、應汰はバツが悪そうな顔で首の後ろを押さえた。
「なぁ…久しぶりに飯でも行くか?」
「え…。」
「俺とじゃイヤ?」
「イヤじゃないよ…。」
「よし、じゃあ今日は俺の奢りだ。」
應汰が笑った。
「うん。」
私も顔を上げて少し笑った。
「いつもの居酒屋でいいか?」
いつもの、という言葉がなんだか嬉しい。
私が笑ってうなずくと、應汰も嬉しそうに笑った。
前は應汰が笑ってくれるのを当たり前だと思ってたけど、当たり前なんかじゃなかった。
その証拠に、私は今、大声を上げて泣きたくなるほど嬉しい。