閉じたまぶたの裏側で
食堂の調理場から母がひょっこり顔を出した。

「あら…まぁ…。」

應汰に抱きしめられている私を見て、母は驚いているようだ。

「あ…。」

私が慌てて離れようとすると、應汰は更に強く私を抱き寄せた。

「芙佳のお母さんですか?」

「ハイ、そうです。」

「芙佳を僕に下さい。」

應汰の突然の申し出に母はポカンとしている。

「ちょっと應汰…!!突然何言い出すの?!」

「俺の嫁になれって何度も言っただろ?それに芙佳、ちゃんと捕まえとかないと勝手にどっか行っちゃうじゃん。お母さん、できれば今すぐにでも芙佳を僕に下さい。」

「どうしましょう、私一人では決められないわぁ。お父さーん、ちょっと来てー。」

何事かと調理場から顔を出した父がギョッとして私と應汰を交互に見ている。

「な…なんだ?」

「あ、申し遅れました。山岸應汰と言います。お父さん、芙佳を僕に下さい。」

「はぁっ?!」

いきなりそんな事言われたら、そりゃ驚くわ!!

「ちょっと待ってよ!!ちゃんと順を追って!!」

「あ、そうか。ちょっと焦りすぎた。」

ようやく應汰は私から手を離した。

父はまだ放心状態だ。



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