おいしい時間 しあわせのカタチ
……ちがう。そうじゃない。
それは俺のただのエゴだ。
それが引いては周りのためにもなるという身勝手な思い込みで、すべてを自分好みにねじ伏せようとした。
そんなとき、俺はいつも根岸に諭され、正された。
バカにされているみたいでいい気がしなかったことの方が多いけど、それでも俺はこいつのことが心底嫌いにはなれなかった。
咎められるたびに、誰よりも俺のことを真剣に考えてくれているやつだとわかったから。
だから進学先が変わって交流が途絶え、成人式でもどさくさに紛れて逃げるように根岸が帰ってしまったのを知ったときから、大上の心には言いようのないうつろな陰がちらつくようになった。
「――そうだな、俺も無神経だった。考えが足らなかったんだ。よかれと思ってしたことが裏目に出てるのに気づかなかった。それをいつもおまえが直してくれてたんだよな」
そして、粗忽な俺は今度こそ、取り返しのつかないことをしてしまいかねなかった。
「直すってほどでもないけど……」
「でも、美砂なら平気だよ。簡単にへこたれる女じゃないから」
付き合い方を改めようと切り出したときは、さすがにショックを受けたような顔をしていたけれど。