おいしい時間 しあわせのカタチ
「けどよ、子供もずいぶん懐いてたんだろ。けっこう食い下がられたんじゃないのか」
「そりゃあなかったこともないけど、でも一方では、俺に失望した部分もあったと思う。……俺、佐希子さんに言われてはっとしたんだ。家族は無理に作るものじゃないって。俺、子連れの女と結婚しようかなとかなんとか言っておきながら、肝心なことを忘れてた」
「肝心なこと?」
「息子にはちゃんと実の親父がいるってことだよ」
「ああ……、それは、そうだな。生きてるのか?」
すごい質問に、驚きを越えて思わず笑ってしまった。
「生きてるよ。この前とか、戦隊モノのごっつくてぴかぴかした、ほら、合体したときのモビルスーツみたいなおもちゃを自慢してきたんだ。パパに買ってもらったんだーって」
その瞬間、根岸はまるで自分のことのように傷ついた顔をした。
「……そのことを、非難されたのか、女に?」
「直接的な言葉ではないけどな。了見が狭いなって顔はされたかも。もっとも俺の目がそう見せてただけかもしんねぇけど。……でも俺、そういうのに耐えられる自信がなかった。ちょいちょい実の父親が俺たちの生活に介入してくる家族なんか冗談じゃないって。俺は、俺だけの家族が欲しかった。昔、自分がいたようなありふれた家族が。だから、俺の理想にはまるなら、たとえ血の繋がらない子供とでもうまくやっていけるって自分に言い聞かせてた」
「大上」
「――でも、やっぱ無理だった」
大上はにっと白い歯を見せて笑った。
反対に、根岸はますます痛ましげに同級生を見つめる。
俺相手にははじめて見せる表情が男なのに切ないくらい嬉しくて、胸が熱くなった。