おいしい時間 しあわせのカタチ
(マジかぁ……)
詠子は前髪をかきあげたまま絶句する。
友人を待つあいだ、体育館裏のさびれたベンチに腰かけて、詠子は全身から悲壮感を放出させながら己の影を見つめていた。
そのとき、足元に、どこからともなく泥だんご――にしては凹凸の多い……じゃがいも? がころころと転がって来た。
ひとつ、ふたつみっつよっつ……おいおい、いつまでつづくんだよ。
「ああ、やだわぁ」
成り行きでじゃがいもを拾っていると、間延びした女のひとの声がじゃがいもを追いかけるように聞こえてきた。
何気なく顔を上げた詠子はまたぞろ、しかし先ほどとは別の意味で言葉を失った。
(な、なにこの美人ー!)
黒髪で若くて、ハリ艶のある、それでいてとんでもなく美しい女性が立っていた。
「ごめんなさいね。参ったわ、いきなり底が抜けるんだもの。申し訳ないんだけど、ちょっと手伝ってもらえます?」
「え、あ、ああはい。もちろん」
細い腕で懸命に支える土まみれのダンボールをいちいち覗き込むまでもなく、詠子は足元に転がったじゃがいもを拾い集めた。