おいしい時間 しあわせのカタチ
てへ、と愛嬌のある顔で笑って誤魔化すその表情の破壊力……。
神さまってほんと、平等じゃない。
「――さて、これで全部みたいね。わざわざありがとう。ああでも手……」
両手で拾ったからすっかり泥だらけだ。
「気にしないでください。洗えば落ちますから」
「寮の方の水道、お湯でますよ。洗っていきませんか?」
なぜか周りを憚るように小声で言うお姉さんが見かけによらず可愛くて、詠子はその飾り気のなさに心を奪われると、言われるままについていった。
「うわぁ、あったかーい」
ひと棟しかない、校舎裏の学生寮。足を踏み入れたのはこれがはじめてだ。
決められた地区の中では唯一の工業科に通いたい、あるいは野球・ハンドボールといった強化育成対象の部活動に所属する志のある生徒、いずれも、毎日通学するのが難しい人たちに限って入寮を認めている。
そのため普段から使われている部屋はごくわずかだが、長期休暇を利用して合宿を行うことは知識として詠子も知っている。