おいしい時間 しあわせのカタチ

 そこここから湯気の上がる厨房は自然の暖房で心地よい温かさに包まれていた。


「遅くなっちゃってごめんなさい丹後さん、これが最後よ」

「ならさっそく洗って茹でましょう」


 女の人が声をかけた方角には洒落っ気の欠片もない服装にそれ以上に地味なエプロンをかけ、マスクを装着した中肉中背の男がひとり。


「あれ、新しいお弟子さんですか?」


 丹後と呼ばれた人が詠子に気づいた。慌ててぺこりと頭を下げる。弟子ではないけれど。


「ちがいますよ」


 詠子さんはすでに手を洗い終えていて、エプロンの紐を結んでいた。


「そこでうっかりじゃがいもを落としちゃったものだから。手伝ってもらったんです。拾うときに手が汚れたと思って。水道どうぞ」

「あ、はい、すいません」

「さてさて、寸胴寸胴っと……」


 並の幼児なら容易に頭まで入りそうな寸胴鍋に水を張り、手際よく泥を落としたじゃがいもに切り込みを入れて鍋に放る。

 なんとも息の合ったコンビネーションだ。

 もしかして夫婦なのだろうか。どちらも料理人だから指輪は衛生面を考慮して外しているのかもしれない。


(奥さん美人なのに旦那が普通っていうのも、点数高いなぁ!)

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