おいしい時間 しあわせのカタチ

 つくづく嫌味じゃないこの超絶美人さんの爪の垢が欲しい、と思いながらハンカチで手を拭っていた詠子の目が調理台の上のクリームチーズをとらえた。


「あの、このクリームチーズはなにに使うんですか? 料理? それともデザート?」

「気になる?」


 いつの間にかじゃがいもを丹後さんひとりに任せて、自らは大量の卵を、またしても水の張った鍋に並べ入れながら、その人は上目遣いにもったいをつく。


「はい。なんていうか、こういう量をたくさん作らないといけない場所にはちょっと不釣合いな気がして。――ていうのは、建前で。本当はわたし、ただの食いしん坊なんです」

「まあ」

「おお」


 邪気のないカミングアウトが受けたらしい。

 じゃああれをあげるよ、とラップのされた小鉢を指差され、覗き込むと、カレー粉のいい香りが。

 一瞬、自分が食べてもいいものかと躊躇ったが、味見用に取っておいた残りだからと言われて遠慮なくいただく。 


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