おいしい時間 しあわせのカタチ


「わぁ美味しい。さくさくでふわふわのれんこん好きー」

「ねー、美味しいわねぇ。気が合うわぁ、わたしも食いしん坊なんですよ。でもただの食いしん坊じゃない、こだわり派。とことんこだわりたい性質なの。だからそれもね、デザートに使うつもり。ケーキ、なんて言ったら大げさかもしれないけど、やっぱりセットにはひとつくらい甘いものを付けたいと思ったものだから」

「すごーい! きっと喜ばれますよ。クラスの男子から聞いた話なんですけど、料理はいつも工夫を凝らしてくれてはいるけど単調で、デザートは果物がそのまま出るだけって言ってたから」

「まぁそれはねぇ、毎日のことですもの。給食とはちがうし。りんご剥いてやってるだけでも感謝しろってなもんでしょう」

「そうですよね」


 と言いながら最後のれんこんを口に入れたところでポケットのなかの携帯が鳴った。

 ぎくりとして見てみれば、思ったとおり。

 やらかした。友だちを待っていたのだ。


「これ、ごちそうさまでした。わたしそろそろ行きます。人、待たせてて」

「あらそう。ちょっとの間だったけど楽しかったわ。また会えるといいですね」


 鶏肉の血合がついたビニール手袋で手を振るお姉さんと丹後さんに頭を下げて、詠子は慌てて寮を出た――出ようとしたとき、


「うわ、危ねぇ」

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