おいしい時間 しあわせのカタチ

 出会い頭にいきなりぶつかりそうになった。――野球部のユニフォーム。

 低いその声に、一瞬、心臓が凍りつく。

 すると今度は逆にものすごい勢いで鼓動を刻み始めた。

 みるみる顔が赤くなっていくのがわかり、詠子は逃げるように後退すると、


「八津くん。ご、ごめん」

「え……ってその声、国本(くにもと)? なんで国本がこんなとこに」

「なんていうか、成り行き? で? ……あはは」

「成り行き?」

「う、うん」


 走った後なのか、いささか息の切れた声は妙にセクシーで、苦しげに歪んだ目元と相まって余計に心拍数が上がる。

 だが、こめかみを伝う汗を無造作に拭う手を見てしまった瞬間、詠子は、抗う余地なく先ほど見た情景を思い出して硬直した。

 今の今までいい具合に忘れられていたのに……と思えば苛立たしかったが、同時にそんな情けないことを思う自分がそれ以上に悔しかった。


「今、合宿中なんだね」

「そう、五日間。でも、朝も昼もあんな美味い飯が食えるなら俺、ここに入りてぇよ」

「そんなにおいし――」

「あっ、詠子いたー!」


 詠子の声を遮って、部活終わりの親友がぱたぱたと駆け寄ってきた。

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