おいしい時間 しあわせのカタチ


「もう探したよ、いつものとこいると思ったらいないんだもん。なんでこんなとこいんの? ああ八津、お疲れ」

「おー」


 平気で男子を相手にできる親友は慣れた口ぶりで級友を労うと、くるりと向きを変え、


「用事とかないんだったらもう行こ詠子、約束してた映画始まっちゃうからぁ」

「う、うん。そうだね。じゃ、じゃあね八津くん」

「ん」


 詠子は半ば引きずられるように自転車置き場へ向かう。

 めずらしく八津くんと話ができたのに、あんな形で終わっちゃうなんて……。

 でも、約束をすっぽかしてレンコンにうつつを抜かしていたわたしも悪い。親友にはわたしが誰を好きなのかは伝えていないのだし。


(だから相談もできないし……)


 そう落ち込むだにまたぞろさきほどのふたりを思い出し、詠子は自らの記憶を打ち消すように勢いよく自転車のスタンドを蹴りつけた。

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