おいしい時間 しあわせのカタチ


(どうすればいいんだろう……)


 うんともすんともしないスマホの真っ暗な画面を見つめていると、不意に視界の端が明るくなった。

 引き戸がレールの上を滑る音がして、佳織は反射的に顔を上げた。

 フェンスへと続く石畳をこちらへ向かってあるいてくるエプロン姿のまとめ髪の女の人と目が合った。

 まだ若い。わたしといくらも変わらない感じ。


「こんばんは」


 なんのてらいもなく声をかけられて、佳織はぎくりと固まった。


「こ、こんばんは」


 会社以外で誰かと言葉を交わすなんて久しぶりで緊張する。

 しかも彼女からは、つい数秒前に佳織が嗅いでいた玉ねぎとブイヨンの香りがより濃厚に漂ってきて、ますます胃が活発に動き出すのがわかる。


「今お帰りですか?」

「あ、は、はい」

「今日も寒かったですね」

「そう、ですね……」

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