おいしい時間 しあわせのカタチ
いつかいい方向へ転ぶはずだと信じ、一途に佳織さんのことを見つめていた彼のことを思うと胸が痛むけれど、佐希子は彼女の決心を応援したかった。
佳織さんにとって、遠く離れていてもそれだけ胸を焦がすのは、手を伸ばせばその手を掴んでくれる佐野くんよりも、
にぶちんで、掴んでいないとその場からいくらでもタイムワープできてしまう、罪作りで平和な彼氏の方だったのだろうから。
「ほら、そもそも仏教徒のおっさんには仕事のこと以外では浮かれるもなにもあったもんじゃねぇが、もうすぐクリスマスだろ。若いやつには楽しくってしょうがねぇ日じゃねぇか」
「まぁそうですねぇ。もっともここ最近はわたしも世間のイベントとはだいぶご無沙汰ですけど」
「佐希ちゃんはいいよ。飲兵衛の12月なんてだいたい毎日クリスマスみたいなもんじゃねぇか」
「ちょっと! なんてこと言うんですか。そんなことないですよ」
カウンター周りが朗笑に包まれる。
それはもちろんコーチも一緒だ。
ずいぶん砕けてくれて嬉しいが、後ろから根岸くんもちゃっかり忍び笑いをこぼしながら参加するのは見過ごせない。
「すいません、そろそろお勘定を」