おいしい時間 しあわせのカタチ
 

(お子さんへの義理立て? それとも、奥さんのことが今でも好きだから?)


 社長は見た目こそ男前とは言い難いが、働き者で社員思いの懐の篤い人だ。

 口も達者だし、実は億手というふうにはとても思えない。

 相手の問題か? と思えば、決して小さくはないスーパーの社長夫人になることにやぶさかではない女は少なくないだろう。

 婚活パーティなんかに参加したら枚挙に暇もなさそうなのに、というのは以前から枡屋でもときどき話題になっていた。

 それでも伴侶を得ず、頑なに操を守るからには、なにか特別な思いがあるのだろう。

 佳織さんは思い焦がれて、焦げ尽きる前に自分の幸せを選んだ。

 社長の意思は、どこにあるのだろう。それとももう、とっくに焦げついてしまったのだろうか。

 そんなの、と一蹴していたけれど、今ならすこし、それも悪くはないと思える不思議。


「佐希子さん、これからご予約の二名様、参られるそうです」

「はい、今行きます」



 長い長い葛藤の末に選んだ佳織さんの未来に、それ以上の幸福が訪れるよう、佐希子は静かに祈りを捧げた。


 1*了

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