おいしい時間 しあわせのカタチ
若い男の声がして、佐希子は抱くように持っていたトイレットペーパーの陰から顔を出した。
笑顔がさわやかで細身のスーツがよく映える、小顔で長身のなかなか雰囲気のいい人だ。
根岸くんの知り合いなのか、やけに弾むような足取りで駆け寄ってくると、根岸くんも、
「大上(おおがみ)!? えっ、嘘! なんでこんなとこに」
驚きの中にも喜びを交えた声を上げた。
「久しぶりだな。成人式以来だからもう四年か。なんか、がっちりしたな、おまえ」
「そうか? そういうおまえはすっかりサラリーマンだな。スーツが似合うよ」
「まぁ今日は特別いいやつを着てるしな。――ところで、そちらの方は? もしかしておまえの……?」
言いながら、大上と呼ばれたその人はさりげなく佐希子の左手あたりを注視した。
ああ、と佐希子は根岸くんと目を見交わす。
「ちがうよ。俺まだ全然独身だし。この人は俺が勤めてる店の女将さん。見てのとおり若いけど、れっきとしたうちのボス」
「ボス!」
「はい、ボスです」
佐希子はトイレットペーパーを持ち直しながら根岸くんの調子に合わせる。
「根岸くんのお友だち?」
「はい。大上って言って、中高いっしょだったんです」
「へえ。どうもはじめまして」
「ど、どうも。……なんだ、いいなぁおまえ、こんな美人の下で仕事できて」