おいしい時間 しあわせのカタチ
冗談混じりに拗ねて見せつつ、このこの、と肘をつく朋輩を、優しい根岸くんはまんざらでもない調子でいなす。
そのやり取りを受けて、佐希子はそれ以上にまんざらでもなく、おほほ、と口元を押さえた。
「ところで、ここへは買出しに来た……のか? じゃあ、ないよな。脚立?」
「ただの付き添いだよ。おまえこそどうしてこんなとこにいるんだ? その格好に釣り合ってねぇぞ」
「コピー用紙の補充だよ」
「ああ、そっか。そういうこともあるわな。――あ、じゃあ俺たちはもう行くわ。今から夜の仕込みがあるから。佐希子さん、急ぎましょう」
「そうね。では」
しなを作るように腰を折り、根岸くんにつづいて車に向かおうとしたとき、
「待って、根岸。せっかくだから店の名前おしえてくれよ。今度会社のやつらと一緒に行くから」
「え、今かよ」
「名前だけ言ってくれたら住所はこっちで調べるし。このへんなんだろ?」
メモするから、と言って携帯を取り出す大上さんを見つめながら、いつも快活で裏表のない根岸くんがなにやら逡巡している様子なのを不思議に思う。
「――枡屋ってんだ。一升枡とかの枡って書く」