可愛いなんて思ってない!
「はい、どーぞ。」
秦山がそう言って
私へ机に置いたのは
「わぁ、シチュー!!」
私の大好物の
ホワイトシチューだった。
綺麗なお皿に入れられた
美味しそうなシチューの香りがした。
(1人でシチュー作るなんて…)
料理も得意なんだなぁと感心する。
「すごいね、シチュー作れるなんて。」
「そんなすごいことやないやろ。
一人暮らしで自炊してたらこんなもんやで。」
と秦山が当たり前と言った顔で言う。
そういうもんなのかなぁ、と私が返すと
秦山も一緒にソファに座って
シチューの入ったお皿を持ち上げる。
「ほんなら練習で
俺の家に作りにきてくれてもええんやで?」
(………え?!)
秦山が冗談なのか本気なのか
分からない様子でそんなことを言ってくるので
私は思わず黙ってしまう。
目をパチパチさせながら秦山を見れば
どうやら彼は本気だったようで…
「もうずっと自分の料理しか食べてへんからなぁ。飽きとんねん。」
せやから練習でも何でもええから
他の人の料理が食べたい
なんて言うもんだから
私はまたビックリしてしまう。
(だからって、こんな2人きりの時に言わなくても…。)
他の…あの女の子たちに言えば
作りに来てくれるんじゃないの、なんて
可愛くない考えが浮かぶ。
秦山は別に
私じゃなくても誰でもいいんだと思う。
「…じゃあ外食すればいいんじゃない?」
「えー。
お金勿体無いし、つまらんやん。」
「つまらないって…。」
プロが作るんだから、美味しいし価値があるじゃん
と私が言えば
秦山は「全く分かってへんな〜」と小さく微笑む。
わかってないって、何を…。
「……俺は、小林の手料理が食べたいねん。」
「……へ…。」
-----ドキッ…
私の手料理が…食べたい……って…
(え--------?!)
私は秦山の突然言ってきた言葉に
目を見開く。
そして徐々に顔へ熱が集まるのを感じて
恥ずかしくなって 顔を背ける。
「な、何言ってんの!
私、秦山みたいに料理上手じゃないし
味も保証できな…!」
「せやから練習でも何でもええ言うてるやん。」
なんて
引く様子もなく続けてサラッと言ってくる秦山に
照れてる自分がさらに恥ずかしい。
練習でも何でもいいって、そんな…
(好きな人に失敗作なんて食べさせられるわけないでしょ…!!)
と心の中でツッコむけど
多分何も考えてないあいつには
そんなこと気づいてないんだろうなぁ。