可愛いなんて思ってない!
そんな私の様子に気づいていない斎藤くんは
頼んだものを全部食べて
私に言う。
「…そろそろ帰るか。」
「…うん。」
普通を装ってはいたけど
私は内心 やはり落ち着かなかった。
…何、この気持ち。
私はそのまま斎藤くんと喫茶店を出て
駅まで向かう。
「今日はありがと。妹も喜ぶと思う。」
「いえいえ。そうだと良いけど。」
駅に着いて
私は斎藤くんに改めてお礼を言われる。
妹さんお誕生日おめでとう
と言えば
斎藤くんがありがとうと一言言って
それから少し黙った。
…?どうしたんだろう?
私が斎藤くん?と声をかければ
斎藤くんは フッと笑って
「ねぇ小林。俺のこと"斎藤くん"じゃなくて"ヒロキ"って呼んでよ。」
「……え…。」
と言ってきた。
「な、名前呼び捨てなんて…慣れないよ。」
「良いじゃん。俺そっちの方が慣れてるし。」
男子もハタ以外皆ヒロキだしさ
と
特に意味はない、という様子で言う斎藤くんに
私は渋々 分かった、と返事をする。
「ん、ありがと。
…じゃあまた明日、小林。」
「うん。またね、…ヒロキ。」
そう言って別れて
私たちはそれぞれホームに向かった。
…全然慣れないなぁ。
あの長い付き合いの秦山でさえ
祥一なんて呼び捨てで呼んだこと
1度だって無いのに。
…何と無く私は
今日で斎藤くんとの関係が
少し変わったような…気がした。