可愛いなんて思ってない!
(………あれ…。)
寝始めた頃に
何と無く頭の遠くの方で
何かが音を鳴らしているような気がして
私は落ちそうになっていた意識を
うっすら呼び覚ます。
(…あ、れ…携帯…?)
バックに入れっぱなしだった携帯が
ブー、ブーと鳴っているのが聞こえた。
すぐそばに置いてあったそのバックを
手で引き寄せ、携帯を取り出すと
ちょうど携帯が鳴り止む。
「…っ、え…!」
表示にはなんと
---"秦山祥一"の文字。
私はハッとして携帯を開いて
電話を折り返した。
するとすぐに 相手が出る。
「……もしもし?」
朝ぶりに聞いた声は
落ち着いていて 少し低かった。
「も、もしもし…どうしたの?」
私はフワフワとした意識の中
秦山に話しかける。
自分でもわかるほど
声がほわ〜っとしていた。
「…何や、昼寝でもしてたん?寝起きか?」
私のそんな声の調子に気づいたのか
秦山が呆れたようにそう尋ねてくる。
「あぁ…うん、そんな感---ゲホゲホッ!ゲホッ!」
私は心配をかけないように
平気な振りをしていようと思った矢先
止まらない咳が出てしまい
電話越しに秦山が息を飲んだのが聞こえた。
「っ……おい小林、お前風邪引いとんのか?!」
「ゲホッ…いや、そんなことな---ゲホゲホッ!」
「っ、嘘吐くな!熱は?誰かおるんか?」
心配している様子の秦山が
私にいろいろと尋ねる。
私が少しずつ答えて行くと
秦山が 待ってろ と言って電話を切る。
(待ってろって……え…?)
私は耳から携帯を離して
ボーッとする頭で
秦山のことを考える。
でも、上手く働かず 何も考えられなかった。
そして少ししてから
ピンポーン、とインターホンが鳴る。
私はベッドから体を起こして
玄関を開ける。
すると-----
「っ、小林!大丈夫か?」
「えっ…秦、山…?」
開けた先に立っていたのは秦山だった。
あれ…もしかして
私が家に誰もいないって 言ったから…?
「家に誰もいないんやったら
最低限のことは俺がしたるから、ほらはよ寝ぇや。」
「え、ちょ、待っ…。」
強く追い返すこともできず
そのまま家に上がっていく秦山に
私の声は届いていなかった。
どこかで買ってきてくれたのか
買い物袋を下げて
すまん、ここに置いとくな
とリビングのテーブルに置き
私に体温計の場所を尋ねる。