君のいる世界

「まぁ~玲奈ちゃんのことはお任せください。伊部、一世一代の名作を仕上げてご覧にいれます」


 くすりと苦笑を浮かべた橘マネは席を立つ。


「ぜひ、そうお願いしたいものです。こちらとしても事務所ゴリ押しは避けたいものですから」


 慌てて橘マネの後を追いかける。さっきだって言ったのに、どうしてわかってもらえないんだろう。こんな喧嘩をふっかけるみたいにしなくても、礼治さんはわかってくれるはず。

 だからその後かわされた言葉をあたしは知らない。後から結輝さんに聞いたことだ。



 少しばかり乱暴な手つきで泡盛をついだ伊部さんが、「いけ好かない」とつぶやいた。

 無神経なように振る舞っていても、伊部さんも場の雰囲気に気づいていたらしい。


「まあねぇ…確かに使えないのもあることはわかってるんだけどね…」


 礼治さんが手にしたカメラの液晶が明るくなり、玲奈ちゃんの顔が映し出される。


「こんなイっちゃった顔、俺だって使えるなんて思ってない」

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