君のいる世界

 明けて翌日、撮影は最終日を迎えた。

 ダメ出しをされた礼治さんは落ち着いているのに、あたしはソワソワして立ったり座ったり落ち着かなかった。

 橘マネのことが気になってしかたない。橘マネは、全体が見渡せるような、少し離れた場所にいて目を光らせている。

 今日もまた、礼治さんに迷惑をかけてしまったら、どうしよう……

 朝から海風が強くて砂を巻き上げていく。ばたばたと風を受けて張りつめたタープが揺れる。



 礼治さんは普段と変わらずカメラに、新しいメモリーカードを差し込んでいた。

「玲奈ちゃん、クマになったの?」


「マネージャーが来ているの、緊張します…」

「気にしないで。俺だけ見てたらいいから」



 さらりと言いきった礼治さんは格好良くてドキンと胸が高鳴る。

 結輝さんもスタイリストの青木さん、編集の伊部さん、遠くだけど橘マネもいる。それなのに、礼治さんがそう言ってくれるのなら、あたしは礼治さんを信じて、礼治さんだけを見つめていればいいんだと気持ちが軽くなった。

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