君のいる世界

 ぼうっと立ちすくむあたしに、橘マネが近づいて来てパーカーを着るようにせかした。


「玲奈、あまり時間がありません。荷物は車にあるので、車で着替えたら出発しましょう」


 終了を告げてから、礼治さんは一言も話さないまま、カメラの砂を払い、黙々とケースにしまっていく。

 こんなにそばにいて、でも話しかけることができない。この距離感は、礼治さんと仕事をする前と変わらないはずなのに、礼治さんと話してその笑顔を向けてもらった今では、とても寂しい。

 知らなかったら我慢できても、知ってしまったら、それが欲しい。礼治さんの、笑顔が。

 こんなに苦しくなることがあるなんて……あたし、どんどん贅沢になってる。唇を噛んで泣きそうな自分を我慢する。



 息苦しい空気を払ったのは伊部さんで、拍手とともにねぎらいの言葉を告げる。


「お疲れ~玲奈ちゃん。可愛いかったよ~またおじさんと仕事してよね。


 礼治さんお疲れッス。綺麗に撮れてましたよ~

 青木さんお疲れ~カワイイのからセクシーなのまで、青木チョイス最っ高でした。

本日までありがとうございました。撤収です」



そうして深々と頭を下げた。

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